悲劇

 

「悲劇」と聞いて何を思い浮かべるだろう?

 

 たとえばシェイクスピア。『ハムレット』『オセロー』『マクベス』『リア王

 

あるいは奇跡なんて答えもあるかな。たしかに奇跡は常に悲劇からの脱出・解決として語られるよね。

 

 でも今回ぼくがここでするのは、もう少し身近な話。それは世界中で普遍的に起きてる話でもあるし、一方で当事者ひとりひとりにとってはとてもとても大きなインパクトを持つ話。失恋とダイエットについてのお話です。

 

 それでは、ぼくが気づいた悲劇について、OLを例にとってお話しますね。色々と考えてみたんだけど、これが一番分かりやすいかなって。だって彼女たちは失恋とダイエットをするよね、それはまるで遺伝子でそう設計されているかのように。

 

 

 一般に、OLはダイエットと失恋をしますね。もちろん、その前段階として彼女たちは自分の体をストイックに見つめなおして満足いかなかったり、「きっとこの人と結婚するんだろうな」なんてなんとなく思っていた恋人と決定的な不和に陥ります。

 とにかく、彼女たちはある日、それぞれの理由や動機で、自分の体を突然ストイックに見つめたり彼との関係にヒビを見つけたりします。

 

 

 

(、、、失恋とダイエットは並行に話せばよかったですね。交差に話すととても分かりづらいし話しづらい。。)

 

 

 

 とにかく!彼女たちはある日、それぞれの動機でダイエットを始めるわけです。彼女はカレンダーにブルーブラックインキのボールペンで『ダイエット開始!!夏までに〇kg!』と書き込みます。ルミネにワンサイズ細いデニムと可愛い水着を見に行ったりもするでしょう。やっぱり今の私には合わないわ。3ヶ月後の私ならどうかしら?半年後の私はどうなってるだろう?ほっそりとした顔で笑えているかしら。美しい二の腕は太陽の下で光り輝いているといいな。スラリとした脚でヒールを鳴らせば、それを聞いたサチモスはすぐさま新曲を思いついてしまうんじゃないかしら。

 

 

 さて、ここが悲劇の一幕目です。いま彼女の頭の中にはダイエットが成功するイメージしかないのです。彼女は忘れています、ダイエットには失敗の可能性もあるのです。

 

 もちろん、なにも最初から失敗すると思ってダイエットを始める人はいません。でもそうやって張り切って始めた人の、いったい何割が成功するのでしょう。

 少しずつ悲劇が見えてきたでしょうか。世界で/日本で/京王線沿いの築年数の若いオートロックマンションの一室で、日々/いまこの瞬間にも、一人の/何千何万ものOLがダイエットに失敗しているのです。

 

 ほらまた一人、、二人、、、。

 

 

 

成功/失敗とコインの裏表のように言うと、

成功・失敗は二元のストカスティックな選択肢みたいに聞こえるけど、そういうものではないです。いたずらに試行回数を増やせばその内成功するというものではないです。そもそも、ダイエットは大抵失敗するでしょ。

 

 これはもう、最初から決まってるんです。成功する人は、決意したその瞬間から成功の側に足を置いてるんです。「成功」行きの電車のステップを踏み越えているんです。

 

 

 恋愛も一緒です。いま成功する人は、失恋するような人とそもそも付き合わないんです。

「成功」する人は、最初から「成功」行きの電車に乗るんです。途中乗り換えはありません。

どれだけ早く階段を駆け下り、どれだけ懸命に閉まりかけのドアをこじ開けても、あなたが乗った電車は残念、「失敗」行きなんです。向かいのホームに停まる「成功」行きを歯ぎしりしながら眺めているしかないのです。

 

 

 もちろん、ぼくはダイエットも恋も、その営為を否定はしません。ダイエットに成功した方にはおめでとうと言ってやりたい。彼女たちはとても頑張ったし、その努力に見合うだけの結果を得られたのです。恋も同じです。

 

 

 でも実際、多くのダイエットは失敗します。多くの恋は失われます。誰もが成功と幸せを夢見て始めるのに。これが悲劇です。内包された悲劇。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「少し今年の夏は暑すぎない?こんなに暑くて地球のヒューズは飛ばないのかしら。。」

タバコ片手にOLが言います。

その声に目線を向けると、それはぼくの隣の席に座る魅力的な女性でした。

肩口にストンと落ちたブラウンヘア、薄い色の口紅、意思力の強いヒールパンプスの音を鳴らす、凛としたOLです。

 

「どうだろう、地球のヒューズの心配をしたことはないんだ」

 

ぼくらは、駅前と中心街の間を裂くように流れる川のほとりにいた。川面には月や街灯や、どこかのビルの明かりが混ざり合い、匿名性を手にした光が揺らいでいた。

 

彼女は最近、付き合っていた彼と別れ、スポーツジムに通い出しテロイズムみたいに盲目的に体を動かしている。

 

「わたし変われるのかな。」

「君は変わらないよ。変わる必要なんてない」

 

 

ええ。多くのOLは変わる必要なんてないんです。ダイエットなんてしたって、どうせ失敗するんです。あるいは男と別れたとしても、それはそれだけのことなんです。

 

  OLのみなさん、ダイエットなんてやめましょうよ。そして成功する恋をしましょう。周りを見てください。いい男ではないけれど、でも素直な男がいますよ。金も稼ぎます。「成功」行きかもしれませんよ。